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文字どおりに「青取之於藍而青於藍」。~2007年初秋の藍染体験。~ [◆作ること。]

※唐突に2007年初秋の話ですみません。





2007年初秋、
本来の仕事に加え、余分な不本意な仕事に振り回され、
心身ともに疲弊しておりました。
職場と家とを往復するだけで精一杯。
観念的な職務、体を殆ど動かさない実務、
バランスが悪くて疲れもします。
そんな悪循環が極まって諦めの境地。
本来好きな物を作ることなんて、ここ何年も行っていません。

そんな時節、以前から染色に興味を持っていた友人に、
藍染体験に誘われました。
色々と反省をし、手先や体を動かす作業をするきっかけとして、
即、参加を承諾いたしました。
友人の一言、
「紺色フリークなら、藍にも踏み入れたくなるよね。」
異論はありません。

藍染とは、
蓼藍(タデアイ)という植物の葉を発酵させた染料液に
繊維を浸しては、
引き上げて空気に触れさせて酸化させる、
これを繰り返すことで
藍色に染め上げる、伝統的な技法です。
(タデアイの葉を擂り潰して染める”生葉染め”という方法もあります。)

藍の染料液は生もので、常に発酵している状態にあります。
発酵を促進させるために、木灰を入れたり、
発酵の進度にむらがないように混ぜたり、
常に共に生活している必要があります。
糠床と同じです。
ちょっとやってみよう!なんて気持ちで染料液を作ることはできません。

そんな専門的な世界に
体験学習という形で門戸を開いてくれる工房は日本各地にあります。
友人と私は、青梅市の壺草苑にお世話になりました。

こちらの藍染体験は基本的に絞り染めです。
体験コースが2種類あり、
シンプルにビニール紐で絞って染めるハンカチ(1~2時間)と、
木綿糸での絞りから染めまで
一連の流れをこなすもの(原則1日)とがあります。
友人と私は1日体験を選びました。
何を作るのか課題を聞かないまま、朝から青梅に向かいました。

青梅駅からタクシーで1メーター。
歩いても20分かからない上に、
青梅は、緑に囲まれて清々しく、
復刻された古い映画の映画の看板が各所に飾られており、
退屈しません。
ただし、坂道を上り下りする覚悟が必要です。
あと、駅から離れると飲食物の確保が難しいことも注意点です。

さて、タクシーを降りると、真っ先に目に飛び込んできたのが・・・


駐車場に設置された物干しに揺れて輝く、
藍色に染められた糸束。
淡いものから濃いものまでグラデーションになるように
並べて干されています。
人の心を掴むには十分な存在感です。


赤レンガ造りの工房の入り口には、
タデアイが植えられたプランターが置かれています。
ドアを開けて入ると、作品の販売スペースになっています。
その奥、藍染の暖簾をくぐると、独特な臭いに眩暈がします。
まさしく、発酵している藍染料の生々しい臭いです。

臭いに圧倒されながら内を見回すと、
まず目に入るのが、
地上から50cmほど高くなった場所に開いている6個の藍甕。


直径80cm位の円形の間口からは想像できない深さ130cm!
藍染めの染料液で満たされています。
間違って落ちたらひとたまりもありません。
一瞬、”野壺”を連想して震撼。


※ピンボケ写真ですみません。

少々緊張しつつ奥に目をやると、
細長い長方形の、古い風呂のようにタイルが貼られた桶に水をためてあったり、
更に奥には、間口が長方形の藍甕というより、藍プール、
水場、ステンレス・コンクリートで作られた流しや、洗濯機、
メダカが生息する水槽、
その傍の窓の向こうに見える満開の百日紅が見えます。

風が吹くと、
北側の窓の外に見える濃い桃色の百日紅が揺れ、
工房内の高い天井を横断する紐に吊られた
濃淡染め分けられた薄い布が揺れ、
南側の窓の外に見える濃淡藍色の糸束や生地が揺れ・・・
うっとり、ただ、うっとり。


心身共に浮ついたまま私。
職人さんに差し出されたのは、
110cm幅、長さ50~60cmの厚地の木綿です。
テーブルセンターを作ることになりました。
まったくデザインを考えずにやってきた友人と私、
予想外のボリュームの布に動揺。
ちなみに、作るものは月ごとに変わるそうです。

職人さんの説明を聞きます。
作品の絞りの個所を指し示す職人さんの爪は
染料がしみ込んで濃い藍色です。
生来こういう色の爪かと思うくらいに藍色。
極まってます。
藍を入れたい所、入れたくない所、それぞれどう絞るのか、
縫い目と染料液の関係を
実際に染められた作品を使って丁寧に教えてくださいました。

物凄く大雑把に図解をすると・・・

左:染める前(黒い線は縫った糸、丸は玉留め)
右:染めた結果
「山折」「谷折」:絞った際にできる折り目

・・・こんな感じです。

絞ったときに、
外側に出る部分には染色液が染み込んで染まり、
中に折り込まれる部分や玉留めなどで覆われる箇所には
染色液が染み込まず白く残るということです。

一通り説明が終わり、デザインを考えます。
生地が厚いので、
当然、縫い目が大きくなり、大きめの図案を検討します。
繊維の方向や玉留めの位置などを考えつつ、
まだ完成が見えない状態で、図案検討に思考が右往左往。
結局、シンプルにモダンなデザインに決定。
紺色の水性サインペンで布目に垂直な線を平行に引いていきます。


続いて、絞るための波縫いに進みます。
布の質にも依りますが、
今回は厚いので、
布団針に太めの木綿糸(番号失念)を4本取りという組み合わせ。
絞るときに糸が切れては意味が無いので、
万全の体制で4本取りなのです。

縫い目を1cmに決めて、黙々と縫い進めます。
久しぶりの裁縫とはいえ、
シンプルな運針がリハビリになり、忘れていた感覚が蘇ります。
そこからは友人共々モノ作り好き、裁縫も好き。
あれこれ世間話をしながら、手を動かし続けます。
テンションが上がってきます。

その結果が、これです。

縫い目は殆どまっすぐなのですが、
初めての4本取り縫いで糸束がよれ、曲がって見えます。

そして、絞ると、こうなります。


糸をとことん引っ張り、根元に玉留めを作るの繰り返し。
かなり腕力を要する作業です。

ここでタイムアップ。
原則1日体験なのですが、
やはり藍染体験がメインということで、
工房の方のご厚意で、染めは翌日に持ち越しになりました。

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思いがけずの2日目の青梅・壺草苑。
晴れて暑い屋外を忘れるほどに、清々しい工房内。
藍の臭いにもすっかり慣れました。

藍の染料液は、
季節や天候によっても、
壺によってもコンディションが異なります。
ムラができないよう、
4つの藍甕を順番に使って染めることになりました。

作業は、藍の染料液に浸ける、空気に触れさせるの繰り返し。

左図
単に液に浸すだけではなく、
液中で揉んで染色液を布に染み込ませます。
絞ってあるので、染めたい部分に染色液が入るように
ひだの一つ一つにわたって揉み込んでいく作業は、
思いのほか大変です。
腰に来ます・・・。

右図
液から引き上げた直後は、青っぽい緑色ですが、
空気にさらすうちに青くなり、定着します。

濃く染めたければ、上の作業を何度も繰り返せば良いのです。
グラデーションをつけたければ、
最初は絞ったり覆って浸け、
徐々に覆った部分を解いて浸けていきます。


繰り返していくと・・・こんな風に色が変化します。


※モニターによっては、差がわからないかもしれません。

染めの作業が終わったら、すべての糸を抜き、
水にさらして洗い、脱水機にかけます。
そして、完成!
干して乾燥させる前ですが、こんな感じです。


※絞ったときにできるひだの跡が残っています。

この後、自宅に持ち帰り、更に濯いで乾燥させ、
Macのモニターカバーになっています。


達人の技はこんな感じ。
グラデーションも美しく出ています。


繊細な絞り模様です。


染まり方をコントロールするのは非常に難しく、
その難しさこそが醍醐味でもあり、
自分の思い通りにならないことが楽しいのです。
そして、時間の経過が穏やかでした。
日常生活と真逆な状況、
久々に手先を動かし、体を動かし、作業の結果を目の当たりにする、
充実した時間をすごせました。

【参考】

壺草苑 http://www.hkr.ne.jp/~kosoen/


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