SSブログ

大量の情報の整理整頓された形は清々しい!~" Oppenheimer "鑑賞2回目!~ [■ Film]

2回目の鑑賞は出先で予約したから、
自宅に置き忘れて使えなかったムビチケがまだ1枚手元にあるよー!
これで3回観るのは確定。



初回鑑賞で「主張」を表現に織り込む
Christopher Nolan監督の手腕に涙しましたが
https://sound.blog.ss-blog.jp/2024-03-29)、
2回目は大量の情報の的確な取捨選択と整理整頓の清々しさで元気になりました!
頭がすっきりして快適!



映画の原作書籍は映画鑑賞後、もう少し咀嚼してから読む予定。
日本公開を待っている間に、先行して読んだのが、

藤永茂 著『ロバート・オッペンハイマー ─愚者としての科学者』
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480510716/

読んでおいてよかったわー。



J Robert Oppenheimer(以下、Oppenheimer)について
科学者視点で書かれていることが役立ちました。
実験苦手、理論物理学者としては数学はそれほど得意じゃないなど。
同時に他の各界学者の業績が記され、
科学史の流れが把握できました。
そのおかげで、Christopher Nolan監督(以下、Nolan監督)の
情報処理技術と映像表現への落とし込み方の素晴らしさを
早めに知ることができたのでした。
適切な予習や準備は大切。



" TENET "などのSF作品は
設定やプロットの骨格構築から始まると思うのですが、
史実に基づいた有象無象の大量の情報が基になる今作は、
まず情報の読み込みと分析、取捨選択から始まり、
その先に映画的な表現への変換があり、
物語全体を構成していくように見えます。



情報の選別、端的な表現が整然と配置され、
Nolan監督作品すべてに共通する
時間がずっと同じ速さで流れ続ける感触が今作でも健在でした。
一切停滞させないのに、
「主張」を構成する要素きっちり印象に残していく、
磨き抜かれた鋭利な刃物のような美しさです。
それ故に観る側の力量如何で見逃す点も出てきてしまい、
あぁぁぁ確かにあったのに初回鑑賞直後には思い出せなかった!と
自力の心もとなさや頼りなさに、
歯がゆくなったり悔しくなってみたり。



以下、具体的に。



-----------------------------



カラー映像とモノクロ映像が並行して物語が進むのですが、
カラーがCillian Murphy演じるOppenheimerの視点、
モノクロがRobert Downey Jr.演じるLewis Straussの視点です。
各々のある結論の決め手になる同じ場面で
カラーとモノクロ両方を用意している個所もあります。
Nolan監督の「主張」はカラー側にがっつり組み込まれているため、
モノクロ側の情報量を落としている分、最終的に感じる外野感も
「主張」をいい塩梅で取り巻いて、支えているなぁと。



-----------------------------



Cillian Murphy演じるOppenheimerが、
彼に寄せた視点、彼を突き放した視点、中立な視点、
観る側の立場やコンディションに応じて
いずれの角度からも観られるのも
余計な情報を削ぎに削いだのが効いている証左。
それを可能にする演技ができるCillian Murphy、
Cillianありきでこの作品は挑戦できたのでしょうし、
完成したんだなぁと。



「主張」そのものである
Kitty Oppenheime役のEmily Bluntも
Jean Tatlock役のFlorence Pughも
端的な表現を容赦なく繰り返し繰り出してくれるので、
初回鑑賞後、鮮やかにリフレインしたんですよね・・・

Emily BluntはBAFTAもOSCARも
Supporting Actressでノミネートはされてました。
受賞してもおかしくなかったよ。



Leslie Groves役のMatt Damonも素晴らしかった!
それ故に、軍人として圧倒的な有能さと公平さがあり、
常識的な考えや振る舞いもあったからこそ、
原爆投下を成功させてしまったことも確かで、
そこがいかんともしがたい気持ちにさせられました。



BAFTAの時にRobert Downey Jr.本人が、
Nolan監督から抑えた演技をするよう言われたと話していました。
結果、大正解でした。
Robert Downey Jr.の演技は好きな方ではあるのですが、
いつも同じ呼吸やリズム感で、周りの芝居に馴染まないこともあり、
いつ見てもRobert Downey Jr.だな!感は付きまとっていました。
それを求められている可能性もありますが。

今作ではNolan監督にそれがノイズとして扱われ、
とことん削がれたことがこの作品での成功になりました。
モノクロの画面でここまで映える存在感は、彼ならでは。
今後の彼の芝居にバリエーションが増えるのを期待しています。



-----------------------------



先述の書籍にOppenheimerの若い頃のエピソードとして、
彼が趣味で書いた小説を友人に見せたところ、酷評され、
彼はその友人を殴ったと。
彼を含め界隈の友人たちも富裕層で、
高度な教育も受けていたようなので、
思いがけない暴力は衝撃的だったでしょう。

このエピソードだけで人格の固定はできませんが、
友人を殴るってなかなかない。
もっとやり方があるだろうに・・・
自身の感情のコントロールに過剰な形で人を巻き込む性質、
資料を漁ればもっと多くのエピソードが出てきそうです。

今作では、厳しく、意地悪気味な態度の教授の不在時に、
食べると思われる青リンゴに
青酸カリを衝動的に仕込むという形で表現されてました。
(冷静になったOppenheimerは、
毒青リンゴを取り戻して事なきを得ます)

モチーフの選択や、発端から結果までの流れに痺れました。

他にもそういったシーンがたくさんあり、
しまいには、そういうとこだぞ・・・と突っ込んでました。
Oppenheimer、ゲスいんですよ・・・
Cillianだから観ていられるのだと思う・・・
初回鑑賞時も、4か所で突っ込んでましたが、
2回目見たら、突っ込み個所はもっとありました。



-----------------------------


" Batman Begins "撮影後の
Nolan監督のインタビューで、
Dr. Jonathan Crane The Scarecrow役の
Cillian Murphyの目が美しくて、
出きる限り撮ったし、もっと入れたかったと話されてました。

さすがー!わかってらっしゃるー!!!と盛り上がりました。

その後、" INCEPTION "でもっと入れて有言実行!

これに留まらず、
今作では、Cillian Murphyの目が
とことん美しくて映るようなこだわりが随所にあり、
しかもIMAXカメラで撮影し、
IMAXフルスクリーンで余すところなく見せていただけて、
まさにダブルミーニング的に" 眼福 "。

Nolan監督、ありがとーう!!!
(キャスティングと起用の仕方にも絶大な信頼があります!)



----------------------------



Production Design、衣装を観るのが大好きです。
" Poor Things "(哀れなるものたち)のように、
目を引くデザインも面白くて好きなのですが、
全体のシルエットと素材と色を観るのが好きなのです。



特にNolan監督が活用するIMAXカメラで撮影されると、
素材感を含めた色が全て捉えられています。
照明の当たり方で変化する、
織りで光沢や影による色も映るので、
刮目し、発見してはグッと来てしまいます。


今作でも各人物ごとに、
そのシーンでの瞳と肌の色に徹底的に合わせてあり、
統一感を図っています。
色数が絞られて、見やすいと思います。


特にCillian Murphyは
Oppenheimerのアイデンティティが確立するあたりで、
あの美しいブルーの瞳とシンクロしたり調和する
シャツ・ネクタイ・スーツを着用するようになっていきます。
もちろん、背景に溶け込み過ぎず、浮きもしない、絶妙な塩梅。
シルエットもことごとく美しかった・・・
スーツはもちろん、
Albert Einsteinに計算を依頼しに行った林のシーン、
紺色のロングコートの色と柔らかさと、背中の美しさよ・・・



更に上手いのは、違和感の象徴として
敢えて合わない色の衣装を当ててくるところです。
実際、軍服でかつ色調も合わない衣装を着るシーンがあり、
物語のなかでも、それは違うから脱げと言われます。



BAFTAもOSCARも担当のRuth De Jongはノミネートはされていました。
こういうデザイン性ももっと評価されてほしいなぁ。


----------------------------


原爆を日本のどこに投下するか話し合うシーンや、
1945年7月16日の" Trinity "(核実験)の準備から成功までのシーンは
動かない事実であっても、
非常に緊迫した描写ゆえに実験失敗を望んでしまったり、
成功に喜ぶシーンでは目が潤んでしまったりします。
同時にNolan監督の「主張」の提示する要素であり、
整然と描かれているため、
歴史的事実である、それ以上でも以下でもないと
動揺は最小限に抑えられています。



-----------------------------



4月は、新体制になったり、新入社員の対応をするなど、
1年で最も仕事が忙しい時期です。
上映時間を考慮して残業を切り上げ、
池袋のグランドシネマサンシャインに赴き、
180分の映画作品を集中して観て、
深夜に帰宅、入浴やら翌日の準備やらで、
深い時間に就寝。
翌朝は通勤電車に乗って定時出社するって、
過密スケジュールではあるのですが、
思いのほか疲労感がないのは、
この作品の在りようのおかげだと思います。

Nolan監督の情報を徹底的に押さえることで、
印象を持たせる表現方法は、本当に心地良いです!
特に脳が気持ちいいと言っている感じです!
情報の整理整頓は大切!





共通テーマ:映画